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s009

楽園瞑想〜神話的時間を生き直す

宮迫千鶴・吉福伸逸著
雲母書房/2001年09月
1,800円

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 学生時代、トランスパーソナル心理学のワークショップに出たことがある。この心理学がどんなものかもよくわからず、内面にもてあますような混沌をかかえたまま、ユング心理学や禅仏教、イスラム神秘主義、キリスト教神秘主義の本を読み漁っていたころのことだった。今から考えると、この本にも書かれているとおり、吉福氏が、ハワイに居を移す時期のことで、彼のワークショップに参加できたのは幸運だったらしい。

 トランスパーソナル心理学とは何か、というような小難しいことがこの本のテーマではない。むしろ、シャーマン同士のお茶のみ話を聞いているような、というのが正直な読書感だ。もちろん、吉福氏がいかにこの心理学に出会い、ジャズミュージシャンから転身していくか、また今の日本のトランスパーソナル心理学と決別していくかという軌跡を追うだけでも一読の価値はあるのだが、この本を読んで何らかの知識を増やそうだとか、未知の事柄を知りたいというには、あまりに贅沢な話題が満載なのである。詩は読むものではない。全身で感じることだ、という意味で、この本は理性よりも感性に訴えかけてくる。一読すればわかることであるが、吉福氏はまさに日本人離れした「論理的人間」で、思考回路も欧米型だといっていい。しかし、その吉福氏が宮迫氏とことばを重ね合わせるうちに、ことばがひとつの絵を形作るように働き始める。このような対談集は極めてまれだ。本書に何が書かれているかということを解説する必要を感じない。むしろ、吉福氏と宮迫氏の論議の微妙なずれ、それも確信的にふたりでずれたことを語りつつけるところに顕現する「神話的時間」を感じ取ることのほうが重要だ。

 筆者は、先のワークショップで、あるセラピーを受けた。そのときに、吉福氏から言われたひとことを忘れない。トランスパーソナル心理学のワークショップはある意味過激で、セラピーに参加した人間がふっとんでくることがある。これは何の誇張もなく、台風に飛ばされた丸太棒が襲ってくるような感じで、人間が飛んでくる。その人が大怪我しないように、布団のようなものでを押さえつけろというのである。ある種のトランス状態になった人間の力はものすごい。荒れ狂う獣を押さえつけるようなものだ。そのような無意識が顕在化した人間を目の当たりした事などないし、それを押さえつけろといわれても、自分が怪我をするのではないかと思ってびくびくしていた。

 今もそうだが、元気がないほうでない。もてあますほどの活力を持っているわけではないが、セラピーでも結構元気にやっていたのだと思う。それが、このような異常事態のような場面でなすすべもなく、あたふたしていた。そこに、いくつものグループで「獣」を押さえつけてきた吉福氏がやってきて、及び腰の筆者に一言、「けっこう意気地がないんだな!」といい、自らその猛獣と化した青年に向かっていった。筆者は、この本を読みながら、吉福氏に言われたその一言を反芻していた。今一度、彼に会っても、同じことを言われるのであろうかと、そんな愚にもつかないことを考えていた。

 この対談は宮迫千鶴氏でなくては「神話的時間」を現出させることはできなかっただろう。彼女は紹介するまでもなく第一線の画家であり、エッセイストであり、詩人だ。詩を書く人が詩人であるとは限らない。彼女は詩を書くのが億劫になったのか、そのペンを何時の日にか絵筆にもちかえただけだ。詩人は魂のことばを操るシャーマンだ。吉福氏が現在の日本におけるトランスパーソナル心理学と決別しなくてはならなかったのも、この心理学が魂に呼びかけることを辞めたからに他ならない。
魂などないほうが人間は説明しやすい。しかし、それは、精密に出来た「人形」であり、「人間」ではないだろう。神話的時間にこそ、人間は生を生きる。現代人は、生きているのか。そんな素朴な問いかけが、この一冊を貫いている。

 最後に、この本を読まれる人は、編集を担当した田村奈津子という、昨年早世した詩人の名を記憶に留めておいて欲しい。できうれば、この詩人の詩集にも手を伸ばされんことを。編集者としての最後の仕事となった本書の行間には、詩人の遺言が刻まれている。このふたりを神話的時間に招き入れたのは彼女ではなかったか。『楽園瞑想』は、「宮迫千鶴・吉福伸逸著」「田村奈津子編集」と刻まれてしかるべきだ。謙虚な詩人はこのような無粋なことはこのまないだろうけども。

※田村奈津子 1961年松江市生まれ 詩集「みんなが遠ざかったあとで」「野生のスープが煮えるまで」「地図からこぼれた庭」「虹を飲む日」「人体望遠鏡」他(あざみ書房・花神社刊) 彼女は宮迫氏の絶大の信頼を得た優秀な編集者であり、詩人でした。代替医療にも的確な見識をもった人物でした。ここに謹んで哀悼の意を表します。(若松英輔)

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