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ドイツ婦人のハーブ学 八木あき子著 |
ヒルデガルド・フォン・ビンゲン(ビンゲンのヒルデガルド)という名前をご存知だろうか。12世紀ドイツの、名前にもあるとおりビンゲンに生まれた修道女だ。ヒルデガルドの影響力は広く、ハーブ学は、そのうちのひとつでしかない。鉱物学、動物学、医学、神学、文学、音楽などちょうど現代でいえば、ルドルフ・シュタイナーを思わせるような幅広さでその影響力を及ぼした。本書の記述は、ヒルデガルドの言葉から始まる。本書は、著者がヒルデガルドに触れて書いたように、ハーバリスムの霊感(インスピレーション)を受けた本だ。本の随所に、今日の世界を巡るハーブブームへの警鐘や歴史を顧みることの重要性を説く著者は、あたかも何か使命感を帯びているのではと思いたくなる。
ハーバリズムが科学と融合していくことは好ましいことだ。しかし、科学が常に自然の神秘と偉大さに畏敬の念を忘れない限りにおいては、という条件はつく。伝統的であるというだけで盲目的に価値を置くものは、歴史の浄化作用を理解できないだろう。しかし、人間は頻繁に過ちを犯し、浄化すべきではないものも歴史から抹殺してきたことも事実だ。この叡智の宝珠を発見するのは理論よりも霊感の方が適しているといってもいいすぎだとは思わない。
「大企業の製品となったハーブの成分が果たして本来の神秘的な治癒力を保っているか、それは疑問です。何故ならそこにはもう、ヒルデガルドの言う自然と人間との一体感、連帯が失われているからです。自然の恵みにたいする感謝と祈りは、製薬会社に支払われる高価な代金から湧き上がってくるとは思われません。」(本書14ページ)
ここに苛烈な意思だけを読み取るのは不十分だ。むしろ繊細な精神をこそ感じ取るべきだろう。このハーブは何に効く、このハーブの何の成分が効くという論議は止め処なく行われ、今も行われつつある。ここに著者のいう「自然の恵みにたいする感謝と祈り」の場を発見することは難しい。ヒルデガルドが現代に生きていれば、科学の恩恵を蒙りながらも、自然の力を十分に生かすサプリメントを作ったかもしれない。ヒルデガルドは保守的な人間ではない。革新的だからこそ、カトリック教会からは異端視されたのだ。問題は、科学的であるか伝統的であるかではない。むしろそれ以前に、人間が自然の一部であることを真実の意味で認識できるか否かなのだ。そこに、おのずとひとつの倫理が生まれるだろう。
本書には、50種類のハーブに関する歴史的な使用法と用法が詳細に記されている。この後半のリストは便利で読みやすいが、ぜひ、前半の彼女の記述を踏まえてから、そこに紹介されているハーブを日常に招き入れていただきたい。それは、文筆家としての彼女の願いでもあり、この本の最初の30数ページこそが、古きことを語りながら、今日新しいのである。(若松 英輔)
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