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科学とスピリチュアリティの時代 監修:湯浅泰雄・春木豊・田中朱美 |
〈アスコーナという美しい中世風の小都市があり、その片隅、マッジョーレ湖の汀にエラノス会議の場所がある。『エラノス』とは古典ギリシア語で、一種独特の『会食』を意味する。幾人かの参加者が、ひとりひとり思い思いに用意した食物を持って来て互いに頒ち合い、食卓を囲んで談笑し合う、いかにもギリシア人好みの高雅な集会である。二十世紀のエラノスは、この伝統的集会の形式と精神とを再現する。〉(井筒俊彦『エラノス叢書』の発刊に際して)
本書は人体科学会(会長:田中朱美東京女子医大名誉教授)の創設15周年記念として出版されたものだが、この本を読んでいて、自然と思い出されてくるのは「エラノス会議」だ。本書を繰っていて、この賢者の集会に参加した人々の名前が多く出てくるのは偶然ではない。ユングは、エラノス会議の創始者のひとりだった。日本人で最初にこの会議に参加し、大きな影響を残したのは、鈴木大拙だった。宗教学の泰斗エリアーデも、この会議では常連で、井筒俊彦と親交を深めた。本書の推薦人の河合隼雄氏もエラノスに何度か招待されている。
1933年に始められ、20世紀の終わりまでつづけられた、まさに「霊性会議」ともいえるエラノス会議の開始から80年後、日本で編纂された本書で語られている分野も幅広い。医学・哲学・芸術・武道・科学とエラノスを彷彿とさせる。本書で何度となくとりあげられ、論じられている鈴木大拙の「日本的霊性」が書かれたのは、終戦直前の1944年。60年して、やっと大拙の思想が理解し始められようとしている。
本書で、高橋和夫氏はスウェーデンボルグの思想にふれて、霊性に関する思考を展開しているが、彼も指摘しているとおり、この霊性と「霊界」の巨人でもあった人物を最も早く日本に紹介したのも大拙だった。
霊性とは、現象のことではないだろう。霊性とは、人間を超える何ものかとつながる出来事の場以外の何ものでもない。霊性を理性の延長でとらえ、理性的に考察してもその姿が明らかになるとは思えない。「感情の科学的研究」ということばが、内実的には意味をなさないのと同じだ。私たちは、そうした研究で、脳波の動きの変化を知ることが出来ても、人間の感情の不思議に関して少しも理解が深まることはない。
本書のようなアンソロジーは、大抵面白くない。ひとつかふたつ興味深い論文があって、そのために全体を買うというのがお決まりだが、本書は逆だ。すべてが申し分ないといえば嘘になるが、定価分を支払っても十分にその価値はある。ここまで広範囲に「霊性」を考えた書物は実際ないのだから。
なかでもやはり、碩学のことばは、重かった。われわれに近いところでは、帯津良一氏が、ホメオパシーをだしに、“ホリスティック医学は、「霊性」の医学である”といいながら、こうつづける。「いまだ、私たちは本当の意味でのホリスティック医学を手にしていない」。
それは、われわれが、本当に「霊性」を理解してはいないということでもあろうし、医学は人間を未だほとんど理解していない、とも読み取れる。「霊性学」という学問が成り立つのかどうかはわからないが、帯津氏のいうとおり、人間とはすなわち霊性的存在だとしたら、霊性を考えるとき、人間に関係ないことばなど、何ひとつないということになるのではないだろうか。(若松 英輔)
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