Book Club
特 集
それは『人はなぜ治るのか』から始まった
—私にとってのアンドルー・ワイル
降矢 英成(赤坂溜池クリニック院長)
私は、現在、日本ホリスティック医学協会の役員として活動し、東京の赤坂溜池で、ホリスティック医療を理念としたクリニックを開設し、診療をしています。そして、私の現在のこのような医療活動の原動力やモデルとなったのは、アメリカのアンドルー・ワイル博士によるものが大きいのです。
振り返りますに、私がワイル博士を知ったのは『人はなぜ治るのか』(日本教文社)という書物でした。「ホリスティック医学」という理念に強く魅かれ、公衆衛生学の藤波襄二教授(前ホリスティック医学協会会長、カムネット代表)に顧問をお願いして、大学で研究会をつくろうとしていた医学部の5年生のときにこの本を見つけ、「この本があればよりどころとなる中心ができて、緻密さを求める医療関係の人たちにもこの新しい考え方の必要性がわかってもらえる」と感動して、この本を研究会の教科書のような位置づけにしたのです。
「ホリスティック医学」とか「統合医療」とか「代替療法」などという幅の広い理念は、ややもすると全体的な雰囲気だけの「何でもあり」のいい加減な方向になってしまったり、自然治癒力をあげるための健康食品を使っていればよいとか、すべての病気が心の問題や食生活の歪みである、などといった片寄った考え方の人たちに利用されたり、もてはやされたりしている感がありましたが、ワイル博士はまさにホリスティックな視点から片寄ることなく考えているのが感じられたのです。
私は、前述しましたように、当時大学に学生のホリスティック医学の研究会をつくり、将来もライフワークにしたいと考えていましたので、スタンダードになるものとしての漠然とした基準は、現代医学や基礎医学の基本も含まれ、身体だけでなく心や気、霊性、環境までを視野に入れており、かつ何かひとつに片寄ることのない内容を備えているものというものでした。
そういう意味で、ワイル博士は現代医学の基本を身につけたうえに、栄養療法やメディカルハーブなどの自然医学や、呼吸法やイメージ療法などの心身医学的なもの、そしてホメオパシーやエネルギー医学などの代替療法などを、思い込みだけでなく実際に体験しながら理論的な考察も加えて幅広く取り上げていました。初めて知る療法もあり、1回読んだだけではわからないことも多かったのですが、いろいろな視点があることがわかったことは逆に将来興味の対象がつきることなく、あきることがなくて楽しみにも感じられました。
当時も、日本でホリスティック医学を実践している医師は少ないながらも存在していたのですが、正直なところ「変わり者、教祖のような人」とか「現代医学や基礎医学が理解できていない」というような雰囲気の先輩医師たちが多く、私は何とかもう少し当り前のこととして普通の雰囲気でやっていけないのかと思いました。現代医学や基礎医学の知見も取り入れ続けながら、もっと幅広く必要なものを求めて代替療法も使いながら、ホリスティックに医療をおこなうこと、そのために患者さんにいろいろな選択枝を示せること、患者さんの環境を理解し、特に心理面や心身相関についても検討するための診療環境をつくることが必要だと感じていたのですが、ワイル博士はまさにそのような研究心と診療環境をお持ちであると感じました。
この本を読んだこと、ワイル博士の実践状況を知ったことで、自分も意志を強くもってめざす医療像に向かっていこうと意を強くしたのです。医療制度や保険制度の違いもあるので、日本のほうがやりにくそうに感じていましたので、このようなモデル像があることは励みになりました。
こういった理由から、私にとってはワイル博士は特別な存在です。
その後、『ナチュラルメディスン』(春秋社)の出版を記念して来日されたときには、シンポジウムにも出席していただけてナマのお考えを聞くことができ、集大成ともいえる『癒す心、治る力』(角川書店)はいつも座右において今でも辞書がわりに繰り返してひもといている大事な書籍です。そして、この本をとおして翻訳者の上野圭一さんに出会えたことが、大きな大きな副産物でした。上野さんとの出会いから、ホリスティック医学の活動を展開していくための基盤ができたように思うのです。
そういう意味でも、ワイル博士にありがとう!と感謝したいと思います。
特 集
Dr.Weil and his world
~ワイル博士とその世界~
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